市場を独占したい?!メーカーの特許戦略その1

市場を独占したい?!メーカーの特許戦略その1

ArticleNo. 1010-2

 本サイトは、これを見た方に特許出願書類の作成等を実務レベルかつ独力で行えることを目的としています。

 本サイトの管理人は弁理士として仕事をしており、システムエンジニア・中小特許事務所・大手特許事務所・大企業知財部を経験し、みなさまのお役に立てれば光栄です。

 今回は、特許戦略、特に、メーカー(製造者)の特許戦略・知財戦略についてお話しします。

 特許法は「発明の保護及び利用を図ることにより、発明を奨励し、もつて産業の発達に寄与することを目的」とし、発明を公開した者に、その対価として一定期間、一定の条件の下に独占権を付与します。独占権たる特許権を積極的に活用し、市場を独占できた場合には、莫大な収益を期待することができるでしょう。

 しかしながら、特許権の活用方法については、悩んでいる方(経営者、知財部員、弁理士、発明者)が多いと思います。そんな悩みを抱えた方の一助となれば幸いです。

この記事を参照して得られる効果

 

①.メーカーの特許戦略を理解できます。

②.メーカーの特許戦略を実務に活かせます。

 

事前知識:サプライヤー・コンペティター・メーカー

 本題に入るまえに、サプライヤー・コンペティター・メーカーについて説明します。

(1)サプライヤー・コンペティター・メーカーの定義

 さて、横文字が3つも出てきました。私は横文字、好きでは無いんですが、言葉や用語の定義を知ることは大切です。サプライヤー・コンペティター・メーカーの定義を下記に示しています。

・サプライヤー(Supplier:供給元)…部品や製品の提供元を指します。

・コンペティター…(Competitor:競合他社)とは、自社と似たような部品や製品の提供元を指します。

・メーカー(Maker:製造元)…とは、部品や製品を用いて商品を製造する製造元を指します。

(2)サプライヤー・コンペティター・メーカーの関係

 サプライヤー・コンペティター・メーカーの関係については、自社との関係図を見たほうが理解が早いでしょう。下記の図1を参照して下さい。

【図1】

1010-2_FIg1_RelationOfSupplierCompetitorMaker

メーカーの特許戦略

(1)メーカーの現状把握

 さて、本題のメーカーの特許戦略について説明します。自社がメーカーである場合には、サプライヤーから部品を調達して、それを製品にするのが事業ですから、下記図2のような関係になります。

【図2】

1010-2_FIg2_RelationOfSupplierMaker

 普通、自社であるメーカーは、小売に、自社の製品c1を沢山買って欲しいですよね?

 しかしながら、メーカーにもコンペティター(競合他社)は存在するわけで、下記の図3のような関係が一般的には成立します。

【図3】

1010-2_FIg3_RelationOfSupplierMaker

(2)メーカーの課題

 メーカーとしては、小売に独占的に自社の商品(製品c1)を購入してもらいたいわけですが、コンペティターの商品(製品c2)が邪魔なわけです。

 具体的には、メーカーが製品c1に関する特許権(しかも製品c2を権利範囲に含むこと)を有していない場合には、製品c1が、製品c2と比較して、独自技術、品質、量、価格、供給スピード、保証等において、何かしらの有利な点を有していなければ、小売は、コンペティターの製品c2の購入を検討しますから、市場での戦いは消耗戦となり、これが課題となります。

(3)メーカーの特許戦略1:コンペティター(競合他社)の市場からの排除

 コンペティターを市場から排除することができれば、小売は、メーカーの製品しか買えなくなります。したがって、コンペティターを市場から排除する特許戦略を考えます。

(3-1)組成・構造規定特許

 定番中の定番、その物の組成・構造をそのまま請求項(クレーム)に規定した特許です。組成・構造規定特許の発明は、例えば、化合物A+化合物Bを含む組成物や、長尺部品Cに短尺部品Dが接合された構造物、などで規定されます。

 コンペティターの製品c2を排除するには、当該特許発明が特許要件(新規性・進歩性等)を充足するのは当然のこと、その他に、その権利範囲が製品c2を含むことが要件とされます。

 この点、組成・構造規定特許では、棲み分けがなされる可能性(権利範囲外となる可能性)があるため、製品c2を権利範囲に含むことが困難である可能性があり、注意が必要です。

(3-2)選択発明(数値限定・用途限定)特許

 選択発明(数値限定・用途限定)特許は、特に、コンペティターによる将来の市場拡大を牽制するのに有効です。

 例えば、コンペティターが製品c2の改良製品として、製品c2’を出してくるのでないか?などの予測が立つかと思います。そこで、改良製品c2’を権利範囲とした数値限定特許を取得することで、将来的に、コンペティターによる改良製品c2’の実施(製造・販売等)を牽制することが可能となります。

(3-3)作用・機能・性質・特性規定特許

 作用・機能・性質・特性等で規定した特許は、特に、コンペティターによる現在の市場拡大を牽制するのに有効です。

 例えば、コンペティターの製品c2が、ある特性、例えば剛性αの数値を示すとします。しかし、この剛性αが公知でない場合には、これを請求項に規定(例えば、「剛性αの数値が~である製品c」と規定)して出願(特性規定特許出願)し、特許権を取得することで、コンペティターの製品の実施を牽制することが可能です。

 もちろん、コンペティターとしては、上記の特性規定特許に新規性が無いものとして、異議申立てや無効審判を行うことが考えられます。しかしながら、そのためには、製品c2が上記特許出願の日前から市場に出回っていたこと(公知)を証明しなければならず、これが簡単では無いのですね。

 公知であることを証明できなかったとしても、仮に訴えられたときに先使用権を主張する手段が考えられます。しかしながら、先使用権の主張も簡単ではありません。先使用権の立証には複数の要件を成立させる必要があり、実務的には、将来的に訴えられることを予め想定して先使用権の保全(先使用権主張のための準備)をしておく必要があります。このような先使用権の保全を行っておくということは、大企業ならばまだしも中小企業等には難しいものです。

 上記のとおり、特性規定出願は、コンペティターの牽制に非常に有効なんですね。

 ただし、特性規定出願は、十分な実施例やメカニズムの記載が無いと成立が困難という欠点もありますので、出願の際には、十分な注意が必要です。

(3-4)パラメータ特許

 パラメータ特許は、上記の作用・機能・性質・特性規定特許に近いものですが、少し違いがあります。パラメータ特許とは、一般的には知られていない特性等で規定された特許、というように考えていただければと思います。例えば、「剛性α」がその業界で一般的な特性(物性)である場合には特性規定特許とされますが、他方で、「剛性α/弾性β」という別次元の特性同士の比率がその業界で一般的な特性でない場合にはパラメータ特許に分類されます。

 パラメータ特許のメリットとしては、①公知の製品等を権利範囲に含めることができる、②公知でない特性なので新規性・進歩性が認められ易い(ただし、製造例等から組成や部品で引例と比較され、新規性・進歩性違反の指摘を受ける可能性はあり)、③コンペティターによる侵害回避が容易でない、などが挙げられます。

 他方で、パラメータ特許のデメリットとしては、①サポート要件違反・実施可能要件違反の指摘を受け易い、②多くの実施例・実施形態、メカニズム等を追記する必要がある、などが挙げられます。

(3-5)関所特許

 関所特許は、明確な定義があるわけではありませんが、一般的には、その業界で製造される共通カテゴリーの製品に共通して使用される部品や化合物の特許といえます。

 例えば、ある会社Xの扇風機X1と、会社Yの扇風機Y1において、首振り制御のための所定の半導体が必須で使用されていると仮定します。この半導体を構成要素として請求項に規定され、他社に権利化された場合には、当該特許を保有する会社以外の各社は扇風機の実施が牽制されます。

 なお、その所定の半導体自体は公知ですから、権利化は難しいです。その場合には、他の部品との組み合わせによって新規性を主張し、予想外の効果を奏すると主張して進歩性を担保するとよいでしょう。もちろん、上記したパラメータ特許や選択発明特許等の表現を加えることも一案です。

(3-6)付随技術特許

 付随技術特許とは、ある製品の製造過程において、必須となる部品や化合物(カテゴリー物)、工程(カテゴリー方法)を権利化した特許を意味しており、概念的には関所特許に近いものです。

 例えば、ある会社Xの扇風機X1と、会社Yの扇風機Y1において、製品の安全性試験等が共通していると仮定します。この安全性試験方法が請求項に規定された付随技術特許が他社に権利化された場合には、各社とも扇風機の製造が牽制されますから、強力な特許となります。

(4)メーカーの特許戦略2:サプライヤー縛り

 上記では、種々の特許により、コンペティターの製品c2を直接的に市場から排除する方法について説明しました。

 次は、サプライヤーをメーカー(自社)に縛ることによるコンペティターへの部品aの供給を断ち、コンペティターの製品c2を間接的に市場から排除する方法について説明します。

【図3】

1010-2_FIg3_RelationOfSupplierMaker

 例えば、上記の図3では、サプライヤーが提供する部品aを使用して、メーカーとコンペティターが、それぞれ製品c1及びc2を製造しています。ここで、サプライヤーによる部品aの提供をメーカー(自社)に縛ることができれば、コンペティアーへの部品aの供給が断たれますから、コンペティターの製品c2を間接的に市場から排除することができますね。

 では、サプライヤーによる部品aの提供をメーカー(自社)に縛る状況をどのように作り出すか、ですが、結論からいうと「サプライヤーの部品を包含した、メーカー及びコンペティターの製品の上位概念」を規定した請求項で特許出願を行います。

 例えば、上記の例でいえば、「部品aを備えた製品c」(※「製品c」は、「製品c1」及び「製品c2」の上位概念)を規定した請求項で特許出願を行う、となります。

 このような特許出願でメーカーが権利を取得することにより、サプライヤーは、コンペティターへの部品aの提供について、断念するか、慎重な判断が求められることになります。何故なら、仮に、サプライヤーが部品aをコンペティターに提供し、かつコンペティターが製品c2を製造した場合には、コンペティターは、メーカーの特許権「部品aを備えた製品c(製品c2を含む)」を侵害し(直接侵害)、かつサプライヤーは、間接侵害(専用品・特注品)を構成することにより、メーカーに特許権侵害の訴えを提起される可能性があるからです。

 特に、サプライヤーが大企業であるほど、コンプライアンス(法令遵守)意識が強い傾向にありますから、この特許権による牽制は非常に有効です。

 今回はここまでです。

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