先後願で実施例が同一だとダブルパテント(39条)の特許拒絶理由がくる!?

先後願で実施例が同一だとダブルパテント(39)の特許拒絶理由がくる!?

ArticleNo. 0731-1

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 今回は、各国実務対応シリーズ、といいつつ日本での実務内容です。管理人が日々の業務で実際に対応した課題、その解決手段、解決に用いた豆知識をつらつらと記載します。実務対応を示すことで、各国での対応に困っている方の一助となればと思います。

 さて、先後願で実施例が同一だとダブルパテント(特許法第39条)の拒絶理由がくる可能性があることについて紹介します。

 なお、明細書における【実施例】の項目は、主に化学系や生物系の技術分野に多く見られ、機械・電気電子等の構造系の技術分野ではあまり見られません。

 今回のお話しは、化学系や生物系の技術分野の明細書に関するものと捉えて下さい。

この記事を参照して得られる効果

 

①.先後願で実施例が同一の明細書を作成した場合の問題とその解消方法を理解できます。

 

たくさん特許出願したいから先後願で実施例が同一の明細書を作成できないか?

 この標題そのまんまの内容で、先日、発明者から相談を受けました。会社によりますが、事業会社の発明者(開発者)のみなさまは、多かれ少なかれ、出願のノルマを課されると思います。

 しかし、一部の発明者を除き、発明のアイデアがそんな簡単に出るわけも無いですし、また、別の実験をしようにも設備や予算の関係で実験データの取得が困難な場合もあるわけで、みなさん苦労しているわけです。

 苦労したはいいがアイデアが出ない…または実験データを取れないとき、「実施例は同じだけど、請求項(クレーム)の表現を変えれば沢山出願できるじゃないか?!」と、考えるのもうなずけます。

 その気持は分かるんですが、先願の実施例と同一内容、又は実質的に同一の内容で後願を出すとダブルパテント(39条)の拒絶理由がくる可能性が高いため推奨できない旨説明し、似たような技術だとしても、先願の実施例のものとは別の構成、別の(構成の)技術的意義の実施例を作成するように指示しました。

先後願の実施例が同一又は実質的に同一であるとダブルパテント(39条)の拒絶理由に該当する理由

 先後願の実施例が同一又は実質的に同一であると、何故、ダブルパテント(39条)の拒絶理由に該当するのかについては、特許法第39条の立法趣旨を知る必要があります。

(1)ダブルパテント排除の原則(一発明一特許の原則)

 特許法第39条は、ダブルパテント排除の原則(一発明一特許の原則)を立法趣旨としています。

 具体的には、特許法では、発明を公開した者にその代償として一定期間にわたり独占排他権を付与し、第三者に発明の利用の機会を与え、これらの間に調和をもたらすことが規定されています(特許法第1条)。

 このダブルパテント排除の原則は、発明に独占排他権を付与するという特許法の目的からの要請に基づいています。

 また、ダブルパテント排除の原則には、1つの発明に2つの特許権が付与されることによる、実質的な存続期間の延長防止という目的も含まれています。

 なお、審査基準及び審査ハンドブックでは、下記の部分等が根拠になります。
【特許・実用新案 審査基準】
「4.2 本願発明と先願発明又は同日出願発明との対比
審査官は、認定した本願発明と、認定した先願発明又は同日出願発明とを対比する。
審査官は、「第2章第3節 新規性・進歩性の審査の進め方」の4.の手法に準じて、この対比を行う(「請求項に係る発明」、「引用発明」のうち、一方が「本願発明」と読み替えられ、他方が「先願発明又は同日出願発明」と読み替えられる。)。」

【特許・実用新案 審査ハンドブック】
3218 機能、特性等の記載により、引用発明との対比が困難であり、厳密な対比をすることができない場合(新規性が否定されるとの一応の合理的な疑い)
「機能、特性等により物を特定しようとする記載を含む請求項であって、以下の(i)又は(ii)に該当するものは、引用発明との対比が困難となる場合がある。
 そのような場合において、引用発明の物との厳密な一致点及び相違点の対比を行わずに、審査官が、両者が同じ物であるとの一応の合理的な疑いを抱いた場合には、その他の部分に相違がない限り、新規性を有しない旨の拒絶理由通知をする。」
「2. 一応の合理的な疑いを抱く場合の例
…(中略)…
(d) 本願の明細書若しくは図面に実施の形態として記載されたものと同一又は類似の引用発明が発見された場合
(例えば、実施の形態として記載された製造工程と同一の製造工程及び類似の出発物質を有する引用発明を発見したとき、又は実施の形態として記載された製造工程と類似の製造工程及び同一の出発物質を有する引用発明を発見したとき等)」

(2)ダブルパテント排除の原則の適用例

 例えば、ある組成物の実施例について出願を2つ…第1の出願の次に第2の出願をする場合を考えます。

 第1の出願は組成「化合物A及び化合物Bを含む組成物」で規定され、第2の出願は物性「電気伝導度が○○である組成物」で規定されているものとします。また、下記の図1に示すように、これらの実施例は「化合物a+化合物b」、「電気伝導度が○」とし、この実施例の組成物の放置(養生)評価を行った結果として、組成物の劣化を抑制できることが分かったと仮定しましょう。

【図1】

0731-1_Fig1_InventionMap

 上記の図1の状態では1つの発明(実施例)に対して、2つの特許(第1及び第2の出願)が属する可能性があり、ダブルパテント排除の原則(一発明一特許の原則)に反していることとなります。

 すなわち、ダブルパテント排除の原則により、先後願の実施例が同一又は実質的に同一であると特許法第39条の拒絶理由に該当するんですね。

 なお、先後願の実施例が「同一」であるのみならず、「実質的に同一」である場合(例えば、材料の配合量等を少しだけ変えたものであって、技術的思想が同じもの)についても、39条の拒絶理由が通知される可能性が高いので注意が必要です。

 なお、大文字のアルファベットは上位概念で、小文字のアルファベットは下位概念を前提としています。例えば「A」は上位概念で、「a」は「A」の下位概念です。

(3)特許法第39条の拒絶理由を回避するための実施例の作成方法(明細書の作成方法)

 では実際に、特許法第39条の拒絶理由を回避するための実施例をどのように作成すればよいのでしょうか。

 結論から先にいいますと、先願の実施例とは別構成及び別の技術的意義で実施例を作成する、となります。

 具体的には、後願において、先願の実施例に開示されていない構成(例えば材料)であって、その技術的意義(その構成が奏する効果やメカニズム)が先願の明細書全体に開示されていない構成を、置換又は追加した実施例を作成していただければと思います。

 注意していただきたい点は、上記構成は、先願の明細書(実施例を除く)には開示されていてもよいが、その構成の技術的意義が開示されていないこと、となります。

 特許法第2条では、「この法律で『発明』とは、自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」と定義されています。すなわち、先願の実施例と異なるように後願の実施例を作成するには、後願の実施例の技術的思想を先願のものと異ならせればいいわけです。

 ここで「技術的思想」とは、課題解決手段(請求項の構成)と、その手段(構成)の技術的意義等のことですから、上記のように実施例を作成することにより、「先願には後願の技術的思想が開示されていないですよ」と示すことができるんですね。

※参考

 上記で、先願の実施例と別の構成、別の技術的意義を示すことは、実は、それぞれが新規性及び進歩性の主張に使えるんですね。

 結局のところ、先行技術文献(先願や引用文献)の実施例と比較して、新規性及び進歩性を担保できていれば、実施例同一による特許法第39条の拒絶理由は当然に回避できるということです。

(4)特許法第39条の拒絶理由を回避するための実施例の例示

 上記の実施例の作成方法を踏まえて、実施例を例示します。

 前提条件として、下記の図2に示す先願(第1の出願)が存在しているものと仮定しましょう。

【図2】

0731-1_Fig2_InventionMap

 上記の図2では、実施例に「化合物a+b」や「電気伝導度が○」であることが示されていますから、作成しようとする実施例(第2の出願)においては、これらの構成以外の構成を置換又は追加で含ませる必要があります。

 下記に例示として①~③の発明を挙げています。

①数値限定発明

 先願の実施例「化合物a+化合物b」等において、これらの配合比が、例えばa/b=1/3~1/10の範囲で開示されているとします。

 これを後願の実施例の範囲では、a/b=2/1~1/2等で作成することにより、数値限定発明とすれば、別の構成とすることができます。

 ただし、数値限定発明とする場合には原則として進歩性が無いものと判断される(審査基準「第 III 部 第 2 章 第 4 節 特定の表現を有する請求項等についての取扱い」)ので、進歩性が認められるためには、この数値範囲において、臨界的意義があり、有利な効果(同質顕著な効果、又は異質な効果)がある必要があることに注意して下さい。

 臨界的意義を示すことができれば、この数値範囲における技術的意義についても示せたことになります。

※臨界的意義

 数値限定発明における「臨界的意義」とは、数値範囲の境界値を堺として顕著な効果(同質顕著な効果・異質な効果)を発揮することを意味しています。

 例えば、数値限定発明では、その数値範囲内で、当業者でも予測できないような顕著な効果を発揮する一方で、その数値範囲外では、当業者の予測可能な範囲の効果を奏するか、効果すら奏さないことが必要とされます。

 下記の図3に、後願を数値限定発明とした場合の例を示しています。

【図3】

0731-1_Fig3_InventionMap

②用途発明

 先願において、「化合物A+Bを含む組成物」は、その組成物の劣化抑制の効果を有しています。
 後々の実験で、当該組成物が、それ自体の劣化抑制のみならず、これが添加された食品の劣化をも抑制(未知の属性)できることが判明したとします。
 また、この組成物が食品の劣化を抑制する添加物としての用途に用いられていない場合には、この用途も新規なものです(新たな用途)。
 このような場合に、後願の請求項を「化合物A+Bを含む、食品劣化抑制用組成物」として先願と別の構成とし、実施例の評価を「食品の劣化評価試験」として行い、その効果を「食品劣化の高い抑制効果」として先願と別の技術的意義を示すことで、特許法第39条の拒絶理由を回避することができます。

※用途発明
 用途発明とは、(i)ある物の未知の属性を発見し、(ii)この属性により、その物が新たな用途への使用に適することを見いだしたことに基づく発明を言います(審査基準「第 III 部 第 2 章 第 4 節 特定の表現を有する請求項等についての取扱い」)。
 例えば、ある組成物が公知のものだとしても、この組成物が上記の(i)及び(ii)を充足していれば、「~用組成物」として特許性が認められます。

 下記の図4に、後願を用途発明とした場合の例を示しています。

 用途発明は、物の構成とその評価結果(用途)を合わせた発明ですので、下記の図4では、構成と評価とを合わせて実施例としています。

【図4】

0731-1_Fig4-2_InventionMap

③その他の発明

 上記の①数値限定発明及び③用途発明の例示は、先願の実施例と似たような実施例(実験データ)の改変により、後願の実施例を作成して出願できる可能性のあるものとして、列挙させていただきました。

 その他の発明でももちろん採用可能であり、例えば、請求項を「化合物A+化合物Cを含む組成物」とし、かつ実施例を「化合物a及び化合物c」とすることにより、別構成とすることも可能です(ただし、同質顕著な効果や、異質な効果の作成には注意して下さい)。

 なお、仮に、後願に係る発明が、先願に係る発明の改良にすぎないと判断する場合には、素直に国内優先出願(優先権主張出願)するのが妥当かと思います。

 今回はここまでです。

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