特許法に査証制度が新設!?製法特許等に活かそう!

特許法に査証制度が新設!?製法特許等に活かそう!

ArticleNo. 0911-2

 本サイトは、これを見た方に特許出願書類の作成等を実務レベルかつ独力で行えることを目的としています。

 今回は、将来的に特許法で新設される査証制度について説明します(この記事は、2019年3月28日に執筆されたものです)。

 当該査証制度は、2019年3月1日に閣議決定されたものであり、製法特許等の侵害立証が困難な権利の活用を促進するためのものです。

 既存の制度にも、証拠保全や文書提出命令等があるのですが、これらと比較したメリットをお伝えしますので、出願戦略等にお役立ていただければと思います。

この記事を参照して得られる効果

 

①.新設される査証制度の内容を理解できます。
②.新設される査証制度のメリットを理解できます。

 

従来の制度

 一般的に、特許権に関する特許発明は特許公報等で公開されており、物理的に盗む必要無く、模倣(特許権侵害)が容易です。

 他方で、特許権侵害に関する証拠は侵害被疑者側に偏在しているのが一般的であり、特許権者側としては、当該証拠の把握から始めねばならず、さらには、侵害立証に必要な証拠を集めることも困難です。

 特に、方法や製法(特許法第2条)に関する証拠や、BtoB製品及びコンパイル前のプログラム等(製品に含まれるもの)に関する証拠は、市場に出てくる可能性が低く、侵害被疑者側に偏在しているため、収集の必要性が高いです。

 このような点に鑑み、侵害被疑者側に偏在している証拠を保全・開示させる制度が存在しています。

 このような制度としては、例えば、証拠保全制度や、具体的態様の明示義務制度(特許法第104条の2)、文書提出命令制度(特許法第105条等)が挙げられます。

 しかしながら、これらの制度には、下記に示す点で課題がありました。

①.証拠保全制度の趣旨は、あくまでも証拠の保全にあり、証拠の開示でないこと
②.具体的態様の明示義務制度では、侵害被疑者側が、証拠を開示できない旨の相当の理由(営業秘密等)を主張した場合に、証拠の開示を拒否できること
③.文書提出命令制度では、侵害被疑者側に証拠を開示させる機能が見込めるものの、侵害被疑者側から秘密保持の申立てがあった場合に、命令を受けた者(特許権者等)に刑事罰(特許法第202条)という大きな負担が課されることから、文書提出命令制度の利用を妨げる要因があること
④.その他、目的とする証拠が集まらない可能性や、証拠の開示が遅いなどの課題もあること

査証制度

 従来の制度の課題を解決するものとして、特許権者の侵害立証と侵害被疑者の営業秘密の保護とのバランスの観点から、特許法に査証制度が創設されることとなりました。

 具体的には、この査証制度では、裁判所が中立公正な専門家である査証人を選定し、当該査証人が侵害被疑者の施設(以下、「工場等」)に立ち入り、査証を行います。

 また、査証人には営業秘密等の秘密保持義務が課される(新設される特許法第200条の2)一方で、裁判の当事者には、原則として、秘密保持義務が課されません(例外は、新設される特許法105条の2の10に規定)

 これによって、秘密保持義務違反に伴う罰則が、原則として当事者に課されなくなり、侵害被疑者側に偏在している証拠の開示に関する本制度の利用がより促進されるものと考えられます

 また、工場等の立ち入りによって、書類提出制度では発見できなかったような新たな証拠の発見に結びつく可能性があり、これによって、本制度が侵害の立証により寄与できる可能性があります。

査証制度の充足条件(第105条の2第1項)に関する注意点

 査証制度のメイン条文は、下記に示すように特許法第105条の2第1項に規定されています。

(査証人に対する査証の命令)
・第105条の2
 <1項>
 裁判所は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立てにより、立証されるべき事実の有無を判断するため、
 ①相手方が所持し、又は管理する書類又は装置その他の物(以下「書類等」という。)について、確認、作動、計測、実験その他の措置をとることによる証拠の収集が必要であると認められる場合において、
 ②特許権又は専用実施権を相手方が侵害したことを疑うに足りる相当な理由があると認められ、かつ、
 ③申立人が自ら又は他の手段によつては、当該証拠の収集を行うことができないと見込まれるときは、
 ④相手方の意見を聴いて、査証人に対し、査証を命ずることができる。
 ⑤ただし、当該証拠の収集に要すべき時間又は査証を受けるべき当事者の負担が不相当なものとなることその他の事情により、相当でないと認めるときは、この限りでない。

 査証は、上記第105条の2第1項に記載されているように、①証拠収集必要性、②侵害被疑性、③証拠非収集性、④聴取性、及び⑤負担不相当性の要件を充足する必要があります(①~⑤の俗称は勝手につけたものです)。

 この中で、①、③、及び④は、一見して充足する可能性が高いでしょう。

 他方で、②侵害被疑性と⑤負担不相当性が、どの程度のものか、不明確です。

②侵害被疑性(相手方が侵害したことを疑うに足りる相当な理由)

 ②侵害被疑性については、どの程度の理由を主張すれば、相手方の侵害を疑えると判断されるのでしょうか。

 例えば製法特許の侵害立証では、従来、その製法で生産された物に、その製法特有の痕跡を見出すことが行われてきました。当該痕跡がある物については、その特許製法が使用されたことと直接的な結びつけがあると考えられるためです。

 このような痕跡を示す製法特許であれば、②侵害被疑性の充足はほぼ間違いないでしょう。

 他方で、その生産物が痕跡を示さない製法特許については、下記に示すような従来の手法(a)~(c)によってしか、②侵害被疑性を充足できないでしょう。

(a)侵害被疑者が公開した論文、製品のパンフレット、製品の取扱説明書等
(b)侵害被疑者と直接的に取引のある者(クライアント)からの情報
(c)侵害被疑者との直接交渉

 このようにして検討してみると、②侵害被疑性を充足させることは、文言上では非常に難しく、その実効性には疑問符がつきます。もちろん、この要件を充足させるための具体的な基準は、これから判例等で示されるので、ここでの検討が全てではありません。

 一説には、侵害被疑性の立証を特許権者側が行うのでなく、非侵害被疑性(侵害被疑製法が特許製法の技術的範囲に明白に属していない旨)の立証を侵害被疑者が行うのがよいのでは、との議論がありますが、第105条の2第1項からは、そこまでの情報を読み取れません。

※なお、製法特許に関しては、その生産物が特許出願日前に非公知であることを要件として、侵害被疑生産物が、当該特許製法で生産されたものと推定する旨の規定(特許法第104条)が既に存在し、非侵害の立証を侵害被疑者に課すことが可能です。

⑤負担不相当性(当事者の負担が不相当なものとなること)

 この「当事者の負担が不相当なものとなること」が認められると、査証の要件は成立しません。

 ここでは、査証を行うのに費用や時間が膨大にかかることを理由として査証が相当でない、とされる可能性があることを文言上で示しています。

 この負担不相当性は、どの程度の負担、例えば、製造ライン停止やその他の不利益による負担が当事者にとって不相当なのか、不明確な規定です。

 これについても、具体的な基準が、これから判例等で示されることでしょう。

まとめ

 上記したように、査証人には営業秘密等の秘密保持義務が課される(新設される特許法第200条の2)一方で、裁判の当事者には、原則として、秘密保持義務が課されません。

 そのため、特許権者としては、従来の文書提出命令制度等と比較して、証拠の開示に関する本査証制度は利用し易いものです。

 他方で、査証の要件として侵害被疑性(特許権又は専用実施権を相手方が侵害したことを疑うに足りる相当な理由)や、負担不相当性(当事者の負担が不相当なものとなること)が、特許法第105条の2第1項で列挙され、そもそもの査証の成立には不透明感があります。

 本査証制度は、特許権者の侵害立証と侵害被疑者の営業秘密の保護とのバランスの観点から創設された制度であり、そのバランスをとるべく、これから種々の解釈が付加されてゆくと考えられます。

査証制度に関する条文

 なお、新設される査証制度の規定条文一覧を、下記に示しています。

※下記では、可読性を目的として、段落を設け、アラビア数字に変換し、かつ「項」及び「号」を付しています。経産省のHPで掲載されているオリジナルの条文については、ここをクリックして下さい。

(査証人に対する査証の命令)
・第105条の2
 <1項>
 裁判所は、特許権又は専用実施権の侵害に係る訴訟においては、当事者の申立てにより、立証されるべき事実の有無を判断するため、
 ①相手方が所持し、又は管理する書類又は装置その他の物(以下「書類等」という。)について、確認、作動、計測、実験その他の措置をとることによる証拠の収集が必要であると認められる場合において、
 ②特許権又は専用実施権を相手方が侵害したことを疑うに足りる相当な理由があると認められ、かつ、
 ③申立人が自ら又は他の手段によつては、当該証拠の収集を行うことができないと見込まれるときは、
 ④相手方の意見を聴いて、査証人に対し、査証を命ずることができる。
 ⑤ただし、当該証拠の収集に要すべき時間又は査証を受けるべき当事者の負担が不相当なものとなることその他の事情により、相当でないと認めるときは、この限りでない。
 <2項>
 査証の申立ては、次に掲げる事項を記載した書面でしなければならない。
  <1号>
  特許権又は専用実施権を相手方が侵害したことを疑うに足りる相当な理由があると認められるべき事由
  <2号>
  査証の対象とすべき書類等を特定するに足りる事項及び書類等の所在地
  <3号>
  立証されるべき事実及びこれと査証により得られる証拠との関係
  <4号>
  申立人が自ら又は他の手段によつては、前号に規定する証拠の収集を行うことができない理由
  <5号>
  第105条の2の4第2項の裁判所の許可を受けようとする場合にあつては、当該許可に係る措置及びその必要性
 <3項>
 裁判所は、第1項の規定による命令をした後において、同項ただし書に規定する事情により査証をすることが相当でないと認められるに至つたときは、その命令を取り消すことができる。
 <4項>
 査証の命令の申立てについての決定に対しては、即時抗告をすることができる。

(査証人の指定等)
・第105条の2の2
 <1項>
 査証は、査証人がする。
 <2項>
 査証人は、裁判所が指定する。
 <3項>
 裁判所は、円滑に査証をするために必要と認められるときは、当事者の申立てにより、執行官に対し、査証人が査証をするに際して必要な援助をすることを命ずることができる。

(忌避)
・第105条の2の3
 <1項>
 査証人について誠実に査証をすることを妨げるべき事情があるときは、当事者は、その査証人が査証をする前に、これを忌避することができる。査証人が査証をした場合であつても、その後に、忌避の原因が生じ、又は当事者がその原因があることを知つたときは、同様とする。
 <2項>
 民事訴訟法第214条第2項から第4項までの規定は、前項の忌避の申立て及びこれに対する決定について準用する。この場合において、同条第2項中「受訴裁判所、受命裁判官又は受託裁判官」とあるのは、「裁判所」と読み替えるものとする。

(査証)
・第105条の2の4
 <1項>
 査証人は、第105条の2第1項の規定による命令が発せられたときは、査証をし、そ結果についての報告書(以下「査証報告書」という。)を作成し、これを裁判所に提出しなければならない。
 <2項>
 査証人は、査証をするに際し、査証の対象とすべき書類等が所在する査証を受ける当事者の工場、事務所その他の場所(次項及び次条において「工場等」という。)に立ち入り、又は査証を受ける当事者に対し、質問をし、若しくは書類等の提示を求めることができるほか、装置の作動、計測、実験その他査証のために必要な措置として裁判所の許可を受けた措置をとることができる。
 <3項>
 執行官は、第105条の2の2第3項の必要な援助をするに際し、査証の対象とすべき書類等が所在する査証を受ける当事者の工場等に立ち入り、又は査証を受ける当事者に対し、査証人を補助するため、質問をし、若しくは書類等の提示を求めることができる。
 <4項>
 前2項の場合において、査証を受ける当事者は、査証人及び執行官に対し、査証に必要な協力をしなければならない。

(査証を受ける当事者が工場等への立入りを拒む場合等の効果)
・第105条の2の5
 査証を受ける当事者が前条第2項の規定による査証人の工場等への立入りの要求若しくは質問若しくは書類等の提示の要求又は装置の作動、計測、実験その他査証のために必要な措置として裁判所の許可を受けた措置の要求に対し、正当な理由なくこれらに応じないときは、裁判所は、立証されるべき事実に関する申立人の主張を真実と認めることができる。

(査証報告書の写しの送達等)
・第105条の2の6
 <1項>
 裁判所は、査証報告書が提出されたときは、その写しを、査証を受けた当事者に送達しなければならない。
 <2項>
 査証を受けた当事者は、査証報告書の写しの送達を受けた日から2週間以内に、査証報告書の全部又は1部を申立人に開示しないことを申し立てることができる。
 <3項>
 裁判所は、前項の規定による申立てがあつた場合において、正当な理由があると認めるときは、決定で、査証報告書の全部又は1部を申立人に開示しないこととすることができる。
 <4項>
 裁判所は、前項に規定する正当な理由があるかどうかについて査証報告書の全部又は1部を開示してその意見を聴くことが必要であると認めるときは、当事者等、訴訟代理人、補佐人又は専門委員に対し、査証報告書の全部又は1部を開示することができる。ただし、当事者等、補佐人又は専門委員に対し、査証報告書の全部又は1部を開示するときは、あらかじめ査証を受けた当事者の同意を得なければならない。
 <5項>
 第2項の規定による申立てを却下する決定及び第3項の査証報告書の全部又は1部を開示しないこととする決定に対しては、即時抗告をすることができる。

(査証報告書の閲覧等)
・第105条の2の7
 <1項>
 申立人及び査証を受けた当事者は、前条第2項に規定する期間内に査証を受けた当事者の申立てがなかつたとき、又は同項の規定による申立てについての裁判が確定したときは、裁判所書記官に対し、同条第3項の規定により全部を開示しないこととされた場合を除き、査証報告書(同項の規定により1部を開示しないこととされた場合にあつては、当該1部の記載を除く。)の閲覧若しくは謄写又はその正本、謄本若しくは抄本の交付を請求することができる。
 <2項>
 前項に規定する場合のほか、何人も、その提出された査証報告書の閲覧若しくは謄写、その正本、謄本若しくは抄本の交付又はその複製を求めることができない。
 <3項>
 民事訴訟法第9十1条第4項及び第5項の規定は、第1項に規定する査証報告書について準用する。この場合において、同条第4項中「前項」とあるのは「特許法第105条の2の7第1項」と、「当事者又は利害関係を疎明した第3者」とあるのは「申立人又は査証を受けた当事者」と読み替えるものとする。

(査証人の証言拒絶権)
・第105条の2の8
 <1項>
 査証人又は査証人であつた者が査証に関して知得した秘密に関する事項について証人として尋問を受ける場合には、その証言を拒むことができる。
 <2項>
 民事訴訟法第197条第2項の規定は、前項の場合に準用する。

(査証人の旅費等)
・第105条の2の9査証人に関する旅費、日当及び宿泊料並びに査証料及び査証に必要な費用については、その性質に反しない限り、民事訴訟費用等に関する法律(昭和4十6年法律第4十号)中これらに関する規定の例による。

(最高裁判所規則への委任)
・第105条の2の10
 この法律に定めるもののほか、第105条の2から前条までの規定の実施に関し必要な事項は、最高裁判所規則で定める。
 第105条の4第1項第1号中「書類」の下に「、第105条の2の6第4項の規定により開示された査証報告書の全部若しくは1部」を加える。
 第106十9条第6項中「(昭和4十6年法律第4十号)」を削る。
 第200条の見出しを削り、同条の前に見出しとして「(秘密を漏らした罪)」を付する。
 第200条の2を第200条の3とし、第200条の次に次の1条を加える。
 第200条の2査証人又は査証人であつた者が査証に関して知得した秘密を漏らし、又は盗用したときは、1年以下の懲役又は5十万円以下の罰金に処する。

 今回は、ここまでです。

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