米国での特許の審査過程・制度・取得費用を分かり易く解説します!【その1】

米国での特許の審査過程・制度・取得費用を分かり易く解説します!【その1】

ArticleNo. 0732-2

 本サイトは、これを見た方に特許出願書類の作成等を実務レベルかつ独力で行えることを目的としています。

 本サイトの管理人は弁理士として仕事をしており、システムエンジニア・中小特許事務所・大手特許事務所・大企業知財部を経験し、この経験がみなさまのお役に立てれば光栄です。

 今回は、米国での特許の審査過程・制度・取得費用を、実務上の観点から分かり易く解説します。

 特に、米国で特許を取得しようと思っている方は参考にしてみて下さい。

 なお、このテーマについては何回かの記事に分けて説明する予定です。

 今回は、日本在住の出願人が、米国代理人を見つけて米国出願するまでの過程をご解説します。


この記事を参照して得られる効果

 

①.米国特許の審査過程が分かります。
②.米国特許の制度が分かります。
③.米国特許の取得費用の概要が分かります。

 

米国の特許審査フローの概要

 日本での特許取得の流れ(フロー)を理解するのは大変です。

 ましてや、米国で特許取得のフローを知ろうと思ったら、もっと大変です。

 まずは、大まかな米国で特許取得のフローを下記の図1で示し、各段階でどのような対応をとるか説明していきます。

【図1】

https://getpatent.biz/wp-content/uploads/2019/06/0732-2_Fig1_USPTO_Prosecusion.png

()日本在住の出願人による()米国代理人の選定

 日本在住の出願人が米国で特許を取得する場合には、典型的には、まず、米国代理人を選定します。

①.特許弁護士・パテントエージェント

 米国代理人としては、特許弁護士か、パテントエージェント等の代理人資格を有する者が挙げられます。

 通常、特許出願等を代理する業務は、法律で定められた独占業務であり、代理人資格を持たない者は代理できないからです。

 また、実務的には、特許弁護士を選定するのが一般的です。

 特許弁護士はパテントエージェントよりも、代理可能な業務範囲が大きく、また、秘匿特権の範囲が大きいためです。

 米国代理人の選定では、日本国の代理人を介して選定するか、又は日本在住の出願人が直接選定します。

②.日本代理人を介した選定又は日本在住の出願人の直接選定

 日本代理人を介した米国代理人の選定、日本在住の出願人の直接選定では、下記の()()においてメリット・デメリットがあります。

()米国代理人を探す手間
(
)米国特許庁に提出する英文明細書の正確さ
(
)米国代理人との意思疎通の正確さ
(
)費用

()米国代理人を探す手間

 日本代理人を介した米国代理人の選定においては、米国代理人を探す手間を省けます。

 ある程度以上の規模の特許事務所(日本代理人)は、業務提携している特許事務所を各国で持っています。

 そのため、日本代理人に米国代理人の選定を依頼した場合には、日本在住の出願人が米国代理人を一から探す手間がかかりません。

 また、日本代理人の信用にもかかわりますから、日本代理人は仕事のできる米国代理人と業務提携している可能性が高く、スムーズな権利取得に貢献できます。

 他方、日本在住の出願人が米国代理人を直接選定する場合には、一から探す手間がかかります。

()米国特許庁に提出する英文明細書の正確さ

 日本代理人が仲介する場合には、日本代理人が英文明細書を作成・チェック(レビュー)しますから、英文明細書の誤記等を防止し、技術内容が正確に反映された英文明細書を作成することが可能です。

 他方で、日本在住の出願人が米国代理人を直接選定する場合には、日本代理人が介在しない分、日本在住の出願人が英文明細書のチェックを十分に行う必要があります。

()米国代理人との意思疎通の正確さ

 典型的には、米国代理人とのやりとりは英文レター(手紙)で行います。

 日本代理人が仲介する場合には、英文レターの作成を日本代理人が行って米国代理人とやり取りしますから、米国代理人との正確な意思疎通が可能となり、スムーズな権利取得が期待できます。

 他方で、日本在住の出願人が米国代理人を直接選定する場合には、英文レターの作成を自前で行う必要があります。

()費用

 日本代理人が仲介した場合には、米国代理人を直接選定する場合と比較して、その分仲介費用が発生します。

 ただし、米国代理人を直接選定する場合には、出願人と米国代理人との意思疎通がうまくいかず、レターのやりとりが増えたり、拒絶理由通知(Office Action)への応答回数が増加したりなど、余計な費用がかかる可能性も否定できません(米国代理人は、時間単位の料金加算(Hour Charge)で、処理にかかった時間をそのまま費用に転嫁してきます)

 米国特許の手続に不慣れな場合には、日本代理人を仲介するのが、総合的には妥当かと思います。

()出願方法の選択

 米国に特許出願する場合には、主に、下記の3通りの出願方法を選択することができます。

①.パリ優先権主張出願
②.PCT国際出願
③.通常出願(非仮出願・仮出願)

 

①.パリ優先権主張出願

 パリ優先権主張出願とは、パリ条約の加盟国間において、第1加盟国での出願(優先権主張の基礎とされた出願)に基づいて、1年以内に、第2加盟国に行う出願のことを意味しています。

 日本や米国においては、先願主義と言いまして、先に特許出願した人に特許権を付与する制度を採用しています。

 したがって、先願主義を採用している国では、特許出願において出願日がいつかは重要です。

 優先権主張出願では、先の出願(第1加盟国での出願)の出願日の利益を、後の出願(第2加盟国に行う出願)に引き継ぐことが可能なためです(パリ4条B)

 このようなパリ優先権主張出願の制度に基づいて、日本国(第1加盟国)で行った特許出願を基礎とし、米国(第2加盟国)に特許出願をすることを選択できます。

 なお、日本国の特許出願に基づいて米国にパリ優先権主張出願を行う場合には、米国に別途、日本語明細書の翻訳文(英文明細書)の提出が必要となります。

 第1加盟国での出願言語と第2加盟国での出願言語とが異なる場合には、典型的には、第2加盟国での出願言語で明細書(翻訳文)を作成する必要があると覚えておいていただければと思います。

 なお、パリ優先権主張出願の翻訳文の提出期限は、典型的には、優先権主張の基礎とされた一又は複数の出願の出願日のうち、最先の出願日から、1年以内となっています。

 加盟国の国内法制度によっては翻訳文提出特例期間が設けられ、この1年とは限らないことがありますので、各加盟国での法制度を調べることを推奨します。

 また、パリ優先権主張出願の費用については、下記「()米国特許出願」の項目で説明します。

【図2】パリ優先権主張出願のフロー

0732-2_Fig2_PariPriority

②.PCT国際出願

 PCTとは、Patent Cooperation Treaty(特許協力条約)の頭文字をとった略称のことで、この条約に基づく出願をPCT国際出願と呼称します。

 PCT国際出願は、業界では「国内出願の束」と呼ばれ、当該条約に加盟している複数の加盟国に特許出願をしたのと同様の効果(出願日の確保)をもたらす出願です。

 なお、出願日が重要であることは、「①.パリ優先権主張出願」の項目を参照して下さい。

 ただし、実際にPCT加盟国で特許権を取得するためには、各加盟国での実体審査(出願内容が特許するに値するかの審査)を受ける必要があり、PCT国際出願の直後は、単に、各加盟国での出願日が確保できただけの状態です。

 どういうことかと言いますと、PCT国際出願の後日に別途、権利化したい一又複数の加盟国を指定して、各加盟国の出願言語に対応した明細書(翻訳文)を各加盟国に提出(以下、国内移行)し、典型的には審査費用を支払うことで初めて、実体審査が開始されるんですね。

 各加盟国への国内移行期限は、PCT国際出願の出願日(以下、国際出願日)、又は優先権主張の基礎とされた最先の出願日のうち、最先の出願日を優先日とし、この優先日から30ヶ月以内です(※注:パリ優先権とPCT国際出願では、これらの合わせ技を使えます)

 また、各加盟国への翻訳文提出期限も当該優先日から30ヶ月以内が原則ですが、加盟国の国内法制度によっては翻訳文提出特例期間が設けられ、この30ヶ月とは限らないことがありますので、各加盟国での法制度を調べることを推奨します。

 例えば、日本では、2ヶ月の翻訳文特例期間が設定され、実質的には、優先日から30ヶ月以降でも2ヶ月の期間以内に翻訳文を提出することが可能です(特184条の4第1項)

 なお、パリ優先権主張出願が1対1対応の出願なのに対して、PCT国際出願は1対多の出願であるという点で、これらは大きく異なります。

 実務上、大雑把ですが、外国出願を行う国数が3ヶ国以上ではPCT国際出願が費用や翻訳期間(30ヶ月)の点で有利であることが多く、2ヶ国以下ではパリ優先権主張出願が費用の点で有利であると、業界関係者に認識されています。

 パリ優先権主張出願かPCT国際出願かの選択は、実務上、その「国数」が大きなポイントということです。

 もちろん、PCT国際出願では、各加盟国への国内移行前の国際調査(事前の審査)や、翻訳期間長さ(30ヶ月)の点で、パリ優先権主張出願には無い利点があります。

 しかしながら、出願件数の多い三極特許庁(米国、欧州、日本)のうち、米国及び欧州の特許庁は、自前の審査にこだわる傾向があり、例えば、国際調査機関として日本国特許庁を指定して国際調査報告を作成したとしても、結局、その報告内容(審査内容)が米国及び欧州特許庁で採用されないことが多々あります。

 このように、国際調査の意味があるのか微妙なときも多々あり、実務上は「国際調査報告を活用するためにPCT国際出願をしよう!」というのはあまりありません。

 上記したように、外国出願の「国数」が大きなポイントかと思います。

 なお、PCT国際出願の費用については、下記「()米国特許出願」の項目で説明します。

【図3】PCT国際出願(基礎出願無し)のフロー

0732-2_Fig3_PCT_Application1

【図4】PCT国際出願(基礎出願有り)のフロー

0732-2_Fig4_PCT_Application2 

③.通常出願(非仮出願・仮出願)

 通常出願、すなわち、非仮出願(non-provisional application)や仮出願(provisional application)とは、米国に直接行う出願のことを意味しています。

 非仮出願には、上記したパリ優先権やPCTを利用しない出願も含まれますが、ここでの説明では、これらの制度を利用していない場合の出願について説明します。

 非仮出願は、米国において行われる出願のうち、最も多い形態の出願です。

 非仮出願では、明細書等の書類の全てを英語で作成してから出願する必要があり、日本在住の出願人が利用することはほぼ無いかと思います。

 仮出願は、主に、出願日を確保するために緊急で行う出願という位置付けです。

 日本国特許法の国内優先権制度(特41条)に類似していますが、明細書や図面があれば、請求項(クレーム)が必要なくとも出願可能という点において、異なっています。

 仮出願する明細書は、日本語で作成されたものでも可能です。

 ただし、この制度も日本在住の出願人が利用することはほぼ無いかと思います。

()米国特許出願

 ①パリ優先権主張出願、②PCT国際出願、③通常出願(非仮出願・仮出願)のいずれのルートを利用しても、英文明細書の提出が必要となります。

 また、米国では、情報開示陳述書(IDSInformation Disclosure Statement)という特有の制度もあり、これにも対応せねばなりません。

①.英文明細書(費用含む)

 日本在住の出願人が英文明細書を作成しようとする場合には、典型的には、日本国内の翻訳会社か、特許事務所に依頼をかけます

 英文明細書の作成も一から行うのでなく、日本語明細書が存在し、それに基づいて、日⇒英翻訳(以下、日英翻訳)を行うのが一般的です。

 このような技術書類としての特許明細書の翻訳は、産業翻訳と呼ばれ、理系の素養及び米国等の現地の法律知識も必要となるような、一般の翻訳とは異なるマニアックなもので、その分高めの費用がかかります。

 典型的には、特許事務所よりも翻訳会社に依頼したほうが、産業翻訳費用は安く抑えられます

 しかしながら、上記したように、特許明細書の翻訳には、現地の法律(特許法や判例)に合わせた翻訳技術が求められることから、読み手の誤解を回避し、正確かつ適切な権利範囲を取得しようとする場合には、特許事務所に依頼するのが好ましいです。

 現在、特許業界でよく利用される手法は、翻訳会社に翻訳させ、その翻訳文を特許事務所にレビュー(review)させるという手法です。

 レビューの費用も低く抑えるために、請求項(クレーム)だけ特許事務所にレビューさせる方法もあります。

 目的に応じて使い分けるのがよいでしょう。

 日本語の特許明細書から英文明細書への翻訳費用は、縦50字×横40字×20頁の日本語明細書があるとして、ざっと50~60万程度ですかね。

 さらに、日本の代理人を介して、米国の代理人に出願依頼するとなると、総額では、130~150万程度(日本語の特許明細書20頁の場合)を見込むと良いでしょう(特許事務所や翻訳会社等によって種々変動することはご留意下さい)

 日米の代理人共通の案件受任費用やレビュー費用、通信費用等、米国特許庁の審査費用、その他もろもろ含めると、軽く100万超がかかる計算です。

 なお、英文明細書の作成は、典型的には、出願予定日(優先権期限やPCT移行期限)の2ヶ月~3ヶ月前から開始して下さい。

 英文明細書案の完成に1ヶ月、及び日米代理人及び発明者のレビューに1ヶ月で、2ヶ月程度はかかると見込むためです。

 また、出願予定日の1ヶ月前等の差し迫った時期に、特許事務所や翻訳会社に翻訳依頼をかけると、追加の緊急対応料金(Urgent Fee)を取られることがあるので要注意です。

 英文明細書が完成しましたら、典型的には、()パリ優先権主張出願の場合には優先権期限内(基礎出願の出願日から1年以内)の提出()PCT国際出願の場合には国内移行期限内(優先日から30ヶ月以内)の提出()通常出願(特に非仮出願)の場合には即提出を行って下さい。 

※コラム:日英翻訳(内外業務)について
 一昔前の時代、お客様の知財レベルは高くなく、特許事務所の言いなり(と言っては語弊があるかもしれまんせんが)でお金を払い、特許事務所(弁理士)は非常に潤っていました。
 もちろん、平成13年1月6日の新弁理士法の施行前まで「弁理士報酬額表(特許事標準額表、料金表)」なるものがあり、特許業界全体が守られていたという経緯もあります。
 しかしながら、現在、お客様の知財レベルは非常に高くなり、それに伴って、特許事務所が行っている仕事内容のレベルも判断がつくようになりました。
 そうなりますと、特許事務所に出願費用を下げるような要望が行くようになり、その要望内容もまあ、妥当なわけです。
 現在、日本の特許事務所は、国内の特許明細書等の作成料金を安くするようお客様(クライアント)から言われまくっています。
 当たり前といえば当たり前なのですが、現在の特許業界は、あまりに旨味が無いと言うか、価格についても叩かれ過ぎだと私個人としては考えています。
 さて、私の愚痴は置いといて、特許事務所は国内の特許明細書等の作成料金を抑えるよう要望された代わりに、内外、すなわち、海外での特許取得にかかる費用については高めに設定しています。
 特許事務所は、国内の特許明細書等の作成料金を低く抑えてサービスする代わりに、海外での特許取得料金は高めにとるということで、調整をとっているわけですね。

 

②.情報開示陳述書(IDSInformation Disclosure Statement)

 情報開示陳述書(通称、IDS)とは、米国特許出願時から、当該出願に係る特許が発行されるまで、特許出願人に課される義務です。

 義務の内容は、特許性の米国での審査に関して、特許出願人が影響を及ぼすと判断した先行技術文献を、米国特許庁の審査官に開示(提出)することです。

 この義務を怠った場合には、不公正な行為等とみなされ、米国特許権を取得してもその権利行使が認められないなどの不利益を、特許権者(特許出願人)が被ることとなります。

 具体的には、下記の()()等の書類を米国特許庁の審査官に開示する義務が課されます

()特許明細書で開示した先行技術文献
(
)PCT国際出願した場合には国際調査報告で引用された先行技術文献
(
)対応外国出願(米国以外の日本や欧州等で行った同じ内容の特許出願)の審査で引用された先行技術文献
(
)対応外国出願の審査で通知された拒絶理由通知書・拒絶査定謄本
(
)対応外国出願に係る異議・審判・訴訟等の書類

 開示する内容は上記の()()の他にも、発明者に関する問題や、特許に係る製品の販売情報等、多岐に渡りますが、実務上は、上記の()()で十分かと思います。

 というのも、IDSの提出自体にも代理人費用がかかり、これが相当程度負担になるためです。

 IDSの提出では、例えば、1文献あたり、日本代理人で5000円~10000円、米国代理人で10000万~20000円など、合わせて30000円程度かかることもザラです。

 その他、対応外国出願が多い場合には、各国の審査状況等を監視し続けるという膨大な負担を課せられることになり、正直なところ、上記の()()以外の書類についてまで手がまわらないというのが実情かと思います(もちろん、審査に影響を与えるような重要な文献は提出するでしょうが)

 なお、日本代理人を雇っている場合には、IDSの自動提出サービスを行っているところも多いので、相談するとよいかと思います。

 今回はここまでです。

よろしければ!

書いてほしい記事はありますか?

 本記事を参照いただき、ありがとうございました。

 特許等に関して、書いてほしい記事等があれば、遠慮なくメールや下記のコメント入力フォームからご相談下さい。

 時間はかかるかもしれませんが、記事の作成を検討させていただきます。

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