「新規性」の拒絶理由?!その解説と解消方法を公開その2

「新規性」の拒絶理由?!その解説と解消方法を公開その2

ArticleNo. 0621-2

 本サイトは、これを見た方に特許出願書類の作成等を実務レベルかつ独力で行えるようになることを目的としています。

 本サイトの管理人は弁理士として仕事をしており、システムエンジニア・中小特許事務所・大手特許事務所・大企業知財部を経験し、みなさまのお役に立てれば光栄です。

 今回は、前回記事「『新規性』の拒絶理由?!その解説と解消方法を公開その1」の続き、拒絶理由の新規性…特に、新規性を出す方法について説明します。

※なお、本サイトに掲載の記事は、産業財産権法、その他の法律、審査基準、学説、及び判例等に基づいて作成されていますが、読者の理解促進及び簡易なステップでの実務遂行を目的として、詳細(枝葉)を省略していることがあります。その点をご承知おきください。

この記事を参照して得られる効果

 

①.拒絶理由における新規性の意味を文字及びイメージで理解できます。
②.新規性を出す補正の方法を理解し、さらにそれを使用できるようになります。
③.目的に沿った有用な補正の意味を理解できます。

 

前回のおさらい

 私たちが特許出願する場合には、そこに記載されている発明に「新規性」がなくてはいけません。

 「新規性」とは何か?ですが、一言で言いますと「特許出願に係る発明と先行(従来)技術との間に差異がある状態」を意味しています。これらに違いがあれば、新規性があるってことですね。

 特許庁審査官が、特許出願の審査を行い、本発明に対して、新規性が無いと指摘してくるときは、「本発明(の請求項の構成)と先行技術(に記載の構成)との間に差異が無いですよ」ということを指摘しているんですね。

 前回の記事では、「4.新規性の具体的な判断」の方法、すなわち、下記のような対比表を作成することまでお話ししました。

 今回の記事では、「5.新規性を出す方法」についてお話しします。

【表1】対比表

対象請求項

本願発明の構成

引用文献1に開示の構成

引用文献2に開示の構成

引用文献3に開示の構成

番号

内容

請求項1

基材

【発明を実施するための形態】に記載あり
【実施例】の実施例1等に記載あり

【発明を実施するための形態】に記載あり
【実施例】実施例1等に記載あり

【発明を実施するための形態】に記載あり
【実施例】実施例1等に記載あり

金属粒子A

同上

同上

同上

金属粒子B

記載無し

同上

同上

 

記載無し

記載無し

記載無し

金属粒子C

金属粒子Aの含有量が、金属粒子A及び金属粒子Bの総質量に基づいて、10質量%以上30質量%以下

記載無し

同上

同上

排ガス浄化触媒

【発明を実施するための形態】に記載あり
【実施例】実施例1に記載あり

同上

同上

 

5.新規性を出す方法

5-1.補正とは

 審査官の認定に誤りが無く、私達出願人の側でも拒絶理由対象の請求項に新規性が無いと判断した場合には、当該請求項に新規性を持たせる(出す)必要があります。新規性を出すには、対象の請求項を補正することが一般的です。

 「補正」とは、一言で言えば、「特許出願書類の修正」を行う手続であって、特に、ここでの「補正」は、明細書や特許請求の範囲、図面の実体的内容を補充又は訂正する「実体補正」を意味しています。補正の要件や概要等は、別記事「『補正』ってなに?特許出願書類の一部修正及び削除等のやり方を教えます」を参照していただければと思います。

5-2.現状認識と補正理解を促進するための事前準備

 少し本題から逸脱します。

 補正にかかわらず、物事の本質を迅速に理解するには、その理解の前に、まずはその物事の外形(イメージ)を認識するとよいと考えています。これは、例えば、「上大岡に住んでいます」というのと、「(神奈川県横浜市の地図を示しながら)上大岡に住んでいます」というのでは、理解の度合は、大きく異なることからも理解できるかと思います。

 「特許業界」=「法律業界」ですから、この業界では、条文等の文字で表現されることが非常に多いです。それがスタンダードではあるのですが、「文字ばかり」というのは、読むのが大変でして私はあまり好きではありません。

 したがいまして、まずは、現状認識(本特許出願がどのような状態にあるか)と、補正理解を促進するための事前準備として、「現状及び補正のイメージ」を紹介したいと思います。

5-3.現状の状態及び補正のイメージ

 現状の状態及び補正のイメージを書きで示します。

①.新規性なしのイメージその1

【図1】完全重複

 0621-2_図1_完全重複_新規性なしのイメージその1

 上記の図1の左図に示すように、「新規性なし」とする枠内に「本発明」が含まれる場合には、「本発明に新規性が無い」と判断します。簡単ですね。

 また、前述したように、新規性の具体的な判断は、典型的には、請求項に記載の一又は複数の「構成」が引用文献に記載されているか否かで判断されますから、「新規性なし」とする根拠は、上記の図1の右図で示すように「引用文献」で表現することができます。

 なお、ここで注意して欲しいことは、「本発明」で示した範囲は、「請求項」基づくものであって、「明細書」に基づくものでない、ということです。

 すなわち、明細書に多くの技術的特徴やそのメカニズムを記載しておくほど、補正の自由度が拡大するので、この考え方はよく覚えておいて下さい。

②.新規性なしのイメージその2

【図2】部分重複

 0621-2_図2_部分重複_新規性なしのイメージその2

 上記の図1では、引用文献に本発明の全てが記載されていましたが、それだけでなく、引用文献と本発明とが部分的に重複している場合でも、審査官から新規性が無い旨の指摘を受けることがあります。前述したように、特許法は、新規性なき公知技術の発明には、特許権を付与しないためです。

 一概には言えませんが、私が実務上こなしてきた案件では、上記の「①.新規性なしのイメージその1」の完全重複よりも、「②.新規性なしのイメージその2」の部分重複の方が割合が多いです(つまり、「①」の方がより厳しい)。

③.部分重複における補正イメージ:積極的特定及び消極的特定

【図3】積極的特定

 0621-2_図3_積極的特定_内的付加ver1-1

【図4】消極的特定

 0621-2_図4_消極的特定_内的付加ver1-2

 まずは、新規性を克服しやすい上記の「②.新規性なしのイメージその2」の部分重複について検討しましょう。

 上記の図3及び4の各左図では、「本発明」と「引用文献」とが部分的に重複しています。特に、当該重複部分には、引用文献の【実施例】等の具体例や、好ましい例を示す「が存在しており、この「」と本発明との重複は、かなり致命的であることを意味します。

 なぜなら、このは、典型的には、本発明が既に公知であることを示唆又は実証するものとなり得るからです。

 したがって、本発明の補正によって新規性を出すためには、重複していない部分を特定する(積極的特定:図3の右図の赤色斜線部分)か、又は重複部分を削除する(消極的特定:図4の右図の赤色斜線部分)方法が挙げられます。

 なお、典型的には、積極的特定による補正を採用することが多いです。消極的特定による補正(例えば、除く補正等)は、注意して行わなければ、新たな新規性違反等の問題を誘発するからです。

 したがって、可能な限り、積極的特定による補正をこころがけるのが好ましいでしょう。

④.完全重複における現状イメージ:本願明細書等の範囲

【図5】本願明細書等に引用文献の範囲に含まれない部分が存在する場合

 0621-2_図5_本願明細書等の範囲内

※図5中において、「淡青色部分」は、本願明細書等と引用文献とが重複している部分を示し、かつ「濃青色部分」は、本願明細書等と引用文献とが重複していない部分を示しています。

【図6】本願明細書等に引用文献の範囲に含まれない部分が存在しない場合(本願明細書等が引用文献に含まれる場合)

 0621-2_図6_本願明細書等の範囲外

※図6中において、「淡青色部分」は、本願明細書等と引用文献とが重複している部分を示しています。

 さて、次に、上記の「①.新規性なしのイメージその1」の完全重複について検討します。この「①」(上記の図1)では、引用文献と本発明とが完全に重複していますから、補正を行うにしても、より詳細な検討が必要です。

 具体的には、「本願明細書等」(典型的には明細書)を参照することにより、本願明細書等が引用文献の範囲に含まれない部分が、存在する(上記の図5の濃青色部分)又は、存在しない(上記の図6)かの判断を行いましょう。

 (実体)補正は、本願明細書等(特許請求の範囲、明細書、及び図面)の範囲内において行えますから、上記のようにして本願明細書等の範囲(補正可能範囲)を確認することにより、補正の方向性を見出します

⑤.完全重複における補正イメージ:本願明細書等に引用文献の範囲に含まれない部分が存在する場合

【図7】

 0621-2_図7

 本願明細書等に引用文献の範囲に含まれない部分(濃青色部分)が存在する場合には、上記の図7に示すように、本発明(対象請求項)を濃青色部分に該当するように補正する手段をとることが可能です。

※ただし、当該補正では注意点がありまして、特許法第17条の2第4項の単一性の要件に気をつけて下さい。具体的には、補正の前後において、構成要素の中でも特別な技術的特徴(STF:Special Technical Feature)としての構成を変更してしまった場合には、この要件に違反することとなり、そもそも補正が認められないという事態が生じます。

 下記に、単一性違反となる場合と、そうでない場合とを示す表を掲載していますので、参考として下さい。

【表2】単一性要件

例示No

補正前の請求項の構成

補正後の請求項の構成

単一性要件の充足性

1

A and B(ASTF)

A and b(Bの下位概念)

充足

2

A and B(ASTF)

A and B and C

充足

3

A and B(ASTF)

A and C

充足

4

A and B(ASTF)

B and C

違反

※上記表において、「下位概念」とは、ある二つの概念の一方が「包括」、他方が「被包括」の関係にある時、「被包括」の方を意味します(「包括」の方は上位概念)。例えば、上位概念を「人間」とすると、下位概念は「男」や「女」等であることを意味します。

 上記の例示No「1」か「2」での補正であれば、まず、第17条の2第4項違反となることはありません。

 STFの判断は少し複雑です。STFは、特許法施行規則では「発明の先行技術に対する貢献を明示する技術的特徴」と規定されており、これは、従来無かった(非公知)一の構成又は、従来無かった、複数の構成の組み合わせ、と換言できます。

 例えば、「A and B」の「A」が、従来無かった構成であれば、この「A」がSTFとなり、「A and B」の「A」及び「B」は各々公知だが、「A and B」が従来無かった場合には、この「A and B」がSTFです。

⑥.完全重複における補正イメージ:本願明細書等に引用文献の範囲に含まれない部分が存在しない場合

【図8】積極的特定・選択発明等

 0621-2_図8_積極的特定・選択発明

【図9】消極的特定・選択発明等

 0621-2_図9_消極的特定・選択発明

 次に、本願明細書等が引用文献に含まれる場合について検討しましょう。

 権利取得が、特に厳しい場合ですね。

 上記の図7(本願明細書等に引用文献の範囲に含まれない部分が存在する場合)と異なり、本願明細書等が引用文献に含まれていますから、原則として、本願明細書等の範囲内のどの領域で補正しても、本発明(対象請求項)と引用文献との間で構成上の差異を見出すことはできませんから、新規性違反を回避するのは困難です。

 しかしながら、例外として本発明を選択発明(数値限定発明等)又は用途発明となるように補正することにより、新規性を出せる場合があります。

【表3】選択発明及び用途発明

発明の種類

説明

選択発明

 引用文献に開示された、構成、択一的構成、又は数値等の中でも、特定の構成、所定の構成、又は特定の数値等を特定し、これによって、引用文献と比較して、同質だが際立って優れた効果があると示せる発明、又は異質な効果があると示せる発明を意味する。

 このような選択発明と認められた場合には、新規性が認められる。

用途発明

 請求項に記載の構成は公知であるが、①ある物の未知の属性を発見し、②この属性により、その物が新たな用途への使用に適することが見出された発明を意味する。

 例えば、「フック」が、クレーンに用いるのに特に適した大きさや強さ等を持つ構造を有するという「クレーン用フック」とする場合(用途限定)、この「クレーン用フック」は、同様の形状の公知の「釣り用フック(釣り針)」と構造等において相違するから、前者と後者とは別異のものであり、前者に新規性が認められる。

 これらの選択発明及び用途発明への補正をイメージ化したのが、上記の図8及び9の各々の右図です(ただし、これら選択発明や用途発明への補正は、実質的には、積極的特定となるものがほとんどでしょう)。

 具体的には、本発明を選択発明や用途発明へ補正することによって、重複していない部分を特定する方法(積極的特定:図8の右図の赤色斜線部分)、又は、本発明を選択発明や用途発明へ補正しつつ、重複部分を削除する方法(消極的特定:図9の右図の赤色斜線部分)が挙げられるでしょう。

 なお、の意味については、上記の図3及び4の説明を参照して下さい。

⑦.その他の留意事項

 ここまで、種々の補正のイメージを示してきましたが、これらは例示であり、他にも補正の方法は存在します(例えば、図1や図2で選択発明への補正をすることもありです)。したがって、補正を考慮する場合には、柔軟な思考をもって対応いただければと思います。

 審査官の認定が誤っていれば、そもそも補正をする必要も無いので、そのような前提条件の充足等にも気を配っていただければと思います。

5-4.新規性をだすための具体的な補正の方法

 上記では、現状の状態や補正を、まずはイメージで捉える方法を説明しました。

 ここから新規性を出すための具体的な補正の方法について説明します。

 典型的な補正の方法を下記の表に示しています。

【表4】補正の方法

例示No

補正前の請求項の構成

補正後の請求項の構成

補正の説明

1

A and B

A and b

・積極的特定
上位概念を下位概念とする補正

2

A and B

A and ~であるB

・積極的特定
内的付加

3

A and B

A and B and C

・積極的特定
発明特定事項の直列的付加(外的付加)

4

A and B

B and C

変更1

 

5

A and B

C and D

変更2

 

6

A and B

A and B (bを除く)

・消極的特定
除く補正

7

A and (B1, … or Bn)

A and (B1, … or Bn-k)

・積極的特定
択一的記載の要素(構成)を削除する補正

8

請求項1、請求項2

請求項1

・積極的特定
請求項の削除補正

9

A and Bを含む組成物

A and Bを含む~用組成物

・積極的特定
用途限定(用途発明)の補正

※注1:上記表において、「b」は「B」の下位概念を意味しています。

※注2:「~である」は、その構成の、構造、形状、量、割合等の限定である。例示としては「四角形であるB」や「20質量%以上であるB」等が挙げられます。

※注3:上位概念を下位概念とする補正については、これも「内的付加」の一種とする人もいます。

 補正する際には、図1~図9等で示した補正のイメージを達成するように、上記の表で示した補正の方法を適宜、採用してもらえればと思います。

 なお、拒絶理由通知における補正では、種々の制限がかかります。

 どの段階で、どのような補正の制限がかかるかについての詳細は、別記事「『補正』ってなに?特許出願書類の一部修正及び削除等のやり方を教えます」を参照していただければと思います。

6.目的に沿った補正

 さて、ここまで、補正のイメージやその具体的方法を開示してきました。また、その補正を使用する段階や場面についても、概要を説明してきました(さらに具体的な補正の方法等については、具体的な拒絶の解消方法を紹介する記事等で、開示する予定です)。

 これらの方法に基づいて補正を行えば、新規性の拒絶理由の克服は難しくないでしょう。

 しかしながら、拒絶理由を克服して特許査定されたとしても、それが欲しい権利範囲のものでなければ意味がありません

 したがって、補正を行うにしても、目的をもって行う必要があります(もちろん、「特許権の取得が目的」であれば、この考えは必要ないのですが…)。

 これに関しては、①特許出願をした目的(別記事「特許権って必要?!個人や中小零細企業の悩みに弁理士が回答します」も参照してみて下さい)や、②現状の考慮等を行って下さい。

 例えば、特許出願を行った目的が、他社(他者)排除であるならば、その他社が実施するであろうと予測し得る実施態様が、請求項(権利範囲)に含まれていなければならず、当然に、当該実施態様は、補正後の請求項にも含まれていなければなりません。

 他方、他社の動向が、特許出願前と変化し、排除の必要がなくなっていれば、補正は自由ですし(ただし、自ら実施する実施態様を外さないように注意して下さい)、むしろ特許権を取得する必要すら無いかもしれません。

 このような、①特許出願目的、及び②現状考慮等をよくよく検討したうえで、これらの方向性に沿った補正を行うようにして下さい。 

 今回はここまでです。

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